この顔に似ていたら一〇〇〇万円鹿踊子

舞台脚本・上演台本

この顔に似ていたら1,000万円

十五時までに、他人の結婚式を乗り切れ。

報酬一千万円の条件は、ある御曹司のかわりに結婚式に出ること。時計の針が十五時へ進むなか、だます者がだまされ続ける一本勝負のブラック・コメディです。

作:鹿踊子

上演時間
約75〜85分+休憩(目安)
出演人数
9〜14名
ジャンル
ブラック・コメディ(二幕)

あらすじ

STORY

借金五百万円を抱えた、売れない元劇団員・武者小路拓也。ある朝、郵便受けに入っていた一枚のチラシには、こう書かれていた。「この顔に似ていたら1,000万円」。描かれていたのは、どう見ても自分の顔だった。

指定された高級ホテルの最上階で待っていたのは、総資産五百億円の黒川ホールディングス会長の一人息子、黒川淳司。依頼はただひとつ。「俺の代わりに、俺の結婚式に出ろ」。今日の十五時までに父の目の前で式を挙げなければ、莫大な財産は一円残らず寄付されてしまうのだという。

顔に包帯を巻いた偽の新郎と、同じく雇われた偽の花嫁・恵梨香。目の不自由な会長の前で、二時間だけやりすごせばいい――はずだった。挙式の直前、控室に戻ってきた淳司が、二人の目の前で倒れるまでは。

警察を呼べば、報酬は消える。二人が選んだのは、とんでもない隠し場所。そこへ偽物に気づいた叔父、財産をねらう秘書、会長を警護する刑事、一秒も見逃さない公証人が次々に現れる。全員が誰かの弱みを握り、全員が五百億円を見ている。

時計の針は、十五時へ。顔と名前と金をめぐって、だます者がだまされ続ける。最後に笑うのは、いったい誰なのか。

この作品のしかけ

HIGHLIGHTS

時計が進むほど、追いつめられる

場面ごとに「十二時三十分」「十三時」……と時刻が進み、舞台の時計が十五時へ向かっていきます。観客も登場人物と一緒に、タイムリミットに追われます。

小道具ひとつひとつが伏線

利き手、金色の靴、観葉植物、大きなケーキ、目薬……。序盤のなにげない小道具が、後半にすべてつながります。二度観ると、一度目に見落としたものに気づく脚本です。

包帯で「うり二つ」を作る

そっくりさんの新郎は、顔に包帯を巻いている設定です。顔の似ていない俳優どうしでも、無理なく「うり二つ」の二人を演じられます。

劇団員が主人公の、劇団のための喜劇

売れない劇団員が、「演じること」で生き延びようとする物語。役者が役者を演じるおかしさと、ほろ苦さがあります。

くせの強い大人たち全員に、見せ場

叔父、秘書、刑事、公証人、牧師、ウェディングプランナー、取り立て屋。全員がたくらみを抱え、全員に見せ場があります。

上演データ

DATA

上演時間約75〜85分+休憩
※セリフの文字数から出した目安です。間・動き・転換など、演出によって変わります。
最少出演人数9名(兼役あり)
最多出演人数14名
人数のめやす最少9名(兼役あり)〜最大14名(声だけの役2人を含めて、すべて別の俳優で)。
形式二幕のストレートプレイ
いちばん人数の多い場面披露宴の場面(9人が同時に舞台に立ちます。これが最少9名の理由です)
作鹿踊子

性別が決まっている役

拓也=男性、淳司=男性、恵梨香=女性(新郎・新婦の役のため)。黒川 泰造と白石 美沙は男女1人ずつ(会長と愛人の関係のため。台本では泰造が男性、美沙が女性)。そのほかの役は、名前や呼び方を直せばどちらの性別でも演じられます。

登場人物

CHARACTERS

武者小路 拓也(28)
むしゃのこうじ・たくや。元・売れない劇団員。闇金に五百万円の借金がある。
佐藤 恵梨香(26)
さとう・えりか。元キャバ嬢。偽の花嫁として雇われる。
黒川 淳司(30)
くろかわ・じゅんじ。会長の一人息子。左利き。拓也とうり二つ。
黒川 泰造(70)
くろかわ・たいぞう。黒川ホールディングス会長。目が不自由。
白石 美沙(34)
しらいし・みさ。会長秘書、兼、愛人。
黒川 隆司(55)
くろかわ・たかし。泰造の弟。専務。横領した二億円に追われている。
権藤(50)
ごんどう。警視庁の警部補。会長の警護。
堅田(60)
かただ。公証人。一秒も見逃さない。
小鳥遊
たかなし。ウェディングプランナー兼司会。
牧師
ホテルのチャペルの牧師。式のたびに泣く。
鮫島/ヤス
取り立て屋の兄貴分と、その子分。
便利屋(声)/闇金の男(声)
チラシの電話に出る男と、拓也の部屋のドアをたたく取り立て。

試し読み

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この顔に似ていたら1,000万円作 鹿踊子

プロローグ 前日の朝・拓也のアパート

暗闇。新聞配達のバイクの音。郵便受けに何かが差し込まれる音。

明かりが入ると、散らかった六畳間(舞台の手前だけを使う)。壁に色あせたポスター「劇団なまけもの座 第十二回公演」。

武者小路拓也(28)、督促状の束を床に広げ、電卓をたたいている。

拓也「……十日で三割。五百万の三割が百五十万。十日後に六百五十万。その三割が……(たたく)……やめよう。電卓がかわいそうだ。」

ドアがドンドンとたたかれる。

闇金の男(声)「武者小路さーん。いるのはわかってますよー。」

拓也「(小声で)いません。」

闇金の男(声)「返事してるじゃないですか。」

拓也「……留守番電話です。」

闇金の男(声)「(間)……十日後、また来ますんで。」

足音が遠ざかる。拓也、ぐったりと郵便受けからチラシの束を抜く。

拓也「ピザ……ピザ……不用品回収……(手が止まる)」

一枚を広げ、客席に向ける。大きな似顔絵と「この顔に似ていたら1,000万円」の文字。

拓也「……俺だ。」

拓也、壁の鏡の横にチラシを並べて見比べる。

拓也「俺だ。……いや、俺より少し性格が悪そうだ。でも、俺だ。」

スマホで番号を押す。呼び出し音。

便利屋(声)「はい。」

拓也「あの、チラシを見て。……俺、顔が似てると思うんです。」

便利屋(声)「皆さんそうおっしゃいます。」

拓也「いや、本当に。似てるっていうか、俺です。」

便利屋(声)「……お名前は。」

拓也「武者小路拓也です。」

便利屋(声)「目立つお名前ですね。」

拓也「よく言われます。」

便利屋(声)「ご家族は。」

拓也「いません。両親は早くに亡くなって。親戚とも縁が切れてて。」

便利屋(声)「(少し間)……結構です。明日の正午、ホテル・グランドキャッスル最上階。運転免許証、パスポート、通帳、印鑑。この四つだけ持っておいでください。」

拓也「面接にパスポート?」

便利屋(声)「本人確認です。……それから、借金はおありですか。」

拓也「……なんでわかるんですか。」

便利屋(声)「このチラシに電話してくる方は、皆さんそうです。」

電話が切れる。

拓也「(チラシを見つめ)一千万……。(自分の顔をなでて)父さん、母さん。この顔に産んでくれて、ありがとう。」

暗転。時計の秒針の音が、だんだん大きくなる。

第一場 十二時三十分・新郎控室

明るくなると、上手の新郎控室。壁の時計は十二時三十分。観葉植物は青々としている。

拓也、一張羅のスーツでそわそわと立っている。

扉が開き、黒川淳司(30)が入ってくる。派手な柄のスーツ、金のエナメル靴、ごつい腕時計。左手でスマホをいじっている。

淳司「お前か。」

拓也「はい! 武者小路拓也です!」

淳司「声がでかい。」

淳司、拓也の顔をのぞきこむ。右から、左から、下から。

拓也「……。」

淳司「おお。確かに、俺とうり二つだ。」

拓也「でしょう! 自分でもびっくりして。」

淳司「俺のほうが品がある。」

拓也「……はい。」

淳司「俺のほうが目に力がある。」

拓也「はい。」

淳司「まあ、誤差だ。」

拓也「では、その、一千万円を。」

淳司「馬鹿か。顔が似てるだけで金がもらえると思うな。」

拓也「でもチラシに……。」

淳司「「似ていたら一千万」。正しくは「似ていたら、一千万の話を聞かせてやる」だ。」

拓也「略しすぎじゃないですか。」

淳司「持ってきたか。」

拓也「はい。免許証、パスポート、通帳、印鑑。」

淳司、それを左手で受け取り、パスポートをぱらぱらめくる。

淳司「……武者小路。目立つ名字だな。」

拓也「よく言われます。」

淳司「預かっとく。」

拓也「え。」

淳司「式の最中にパスポートだの通帳だの落としてみろ。「これ誰の?」って話になる。終わったら返す。」

淳司、四つとも自分の上着の内ポケットにしまう。

拓也「……式?」

淳司「俺の代わりに、結婚式に出てほしい。」

拓也「ああ、それくらいでしたら。どなたの結婚式でしょう。」

淳司「俺の。」

拓也「……は?」

淳司「俺の結婚式に、俺の代わりに出てほしい。」

拓也「おっしゃっている意味がよくわかりません。」

淳司「わからなくていい。二時間ほど新郎になって、挙式を成功させたら一千万やる。」

拓也「新郎……。お相手は。」

淳司「用意してある。あとで紹介する。時間がないんだ。」

淳司、ハンガーから白いタキシードを取って放る。

拓也「(受け取って)白……。」

淳司「着ろ。」

拓也「でも、ご家族は騙せないんじゃないでしょうか。いくら顔が似てても、ご両親なら。」

淳司「母さんはとっくに死んでる。親父は重い白内障で、目がほとんど見えない。」

拓也「ああ……。」

淳司「親戚は叔父がひとり。年に一回会うか会わないかだ。気にするな。」

拓也「でも声とか、しぐさとか。」

淳司「(考えて)……そこまで気になるなら、顔に包帯でも巻いとけ。」

拓也「包帯?」

淳司「交通事故で顔の骨を折って、治療中。しゃべりにくいから口数も少ない。完璧だ。」

拓也「結婚式に包帯の新郎って、完璧ですか?」

淳司「ドラマがあるだろ。事故にも負けず愛を誓う男。泣けるじゃねえか。」

拓也、ついたての陰で着替えはじめる。

拓也「(陰から)あの……なんでご自分で出られないんですか。」

淳司「……。」

拓也「すみません、詮索するつもりじゃ。」

淳司「一千万の中に「詮索料」が入ってると思うか?」

拓也「入ってないと思います。」

淳司「正解だ。」

ついたてから、白いタキシード姿の拓也。淳司、救急箱の包帯で、拓也の顔を手早く巻いていく。目と口だけを残して、真っ白。

淳司「(離れて見て)……よし。頭のてっぺんから足の先まで真っ白だ。」

拓也「(姿見を見て)ミイラが結婚するみたいだ。」

― 試し読みはここまでです ―

演じる人へ

FOR PLAYERS

作者から、役づくりのヒントを少しだけ。

  • 武者小路 拓也

    顔が包帯で隠れている時間の長い役です。声と体だけで笑わせる、役者の腕の見せどころ。

  • 黒川 淳司

    横柄で、どこか寂しい。出番の序盤、短い時間で観客に強烈な印象を残してください。

  • 黒川 泰造

    見えない目で、誰よりも多くを見ている人。静かな芝居が、この喜劇の重しになります。

― 鹿踊子